マリアの慟哭

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「守ちゃ~ん、だって!けっ、猫なで声出しやがって」 マリアはどうやら斗桐に色々と理想を押し付けているらしい。 ……ん?あれ?俺、斗桐のマリアに名前教えたっけ?? まあいいか。斗桐がマリアに話していたんだろう。 「おいしいお菓子……」 「よだれ拭けよジャック」 「はやく君の部屋に行こう」 「食い意地はってるのはみっともないよ?」 ほっておいて欲しい。三大欲求は素晴らしい。人の欲というのはとても素晴らしいものなんだ。そう、犯罪衝動でさえも。 「やれやれ。こっちだよ。絶対に部屋の中のもの触らないように」 「エッチな本でも隠してるの?」 忌々しそうに斗桐が舌打ちする。 「それだったらどれだけマシだったか……マリアがヒステリー起こすから、絶対に弄らないで」 キィ。 ドアを開けて、息が一瞬止まった。 ロココ調の室内。フリルがふんだんに使われたベッドカバー。ベッドは天蓋付き。 可愛らしいドレッサーに、猫足のクローゼット。 「マリアは君の性別を勘違いしてるんじゃないか……?」 「アレは僕を『天使ちゃん』にしたいんだよ」 少女の部屋だと言われたほうが納得できるロリータな部屋だ。 でも、そこに斗桐が立つと、しっくりくるから苦笑してしまう。 外見だけなら天使なんだよなぁ。 「天使ちゃん、守ちゃん、お紅茶が入りましたよ」 マリアが変わったお菓子を持って入ってきて――氷の塊が背筋に落ちた。 いやでも、ただマリアがお菓子持ってきただけだし……。 「変わったお菓子だね、マリア」 ひょい、とマリングラスみたいなお菓子を斗桐がつまんで口に入れる。 「クリスタルボンボンよ。さあ、守ちゃんも、どうぞ」 にっこり笑って差し出されたお菓子。 人の好意に弱い俺は――一つだけつまんで、口に入れた。 「おいしい……」 口の中で溶けたガラス球は、ふわりと甘いシロップとジャスミンの香りを残して消える。 「食器、食べ終わったら部屋の外に出していてちょうだいね」 ふわふわと甘い香水の匂いをさせながら、マリアが出て行く。 「いいなぁ、お母さんに愛されてて」 「アレが愛なものか。……僕のカップ取って」 ピンク色の薔薇のコサージュが入ったカップを斗桐に手渡す。 俺は来客用らしい、シンプルな緋色のラインが入ったカップを手にとって――おそるおそる口をつけた。
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