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マリアの慟哭
放課後。俺は斗桐に連れられて、彼の家に招かれていた。
訂正。正確には、彼の家、兼、転生研究所だ。
「すごく綺麗なんだよ。そして、ふふ、すごく、悪趣味」
こじんまりとしたごく一般的な一軒家の中に招かれ、そしてその台所から通じる地下に入る。
そこで俺は息を呑んだ。
青く、美しく光る、人の魂。
巨大な装置に囲まれた地下空間の中心で、人工ダイヤモンドでできた筒が魂を孕んで光っている。
「初めて見たでしょ?このカミオカンデみたいな装置で、空気中の特定の波長をキャッチする。それを何十年もかけて……集めて、女性科学者の胎に入れるんだ。これはまだ五グラムしかない。21グラムには程遠いね」
人が死んだ瞬間に放出される、21グラム。そこに膨大な『データ』が記述されていることが、百年前に証明された。たった21グラム。でもとても高性能な記憶媒体だとすれば、21グラム、成人男性のこぶし一掴み分のメモリーには、その人の人生が記録されていることが分かる。
それが、魂だ。
「吐き気がするね。死人を揺り起こしてこきつかおうってんだから」
「生まれ変わりは、とても有意義な成果をもたらしてきたよ。特に科学技術分野で。こころざし半ばで死んだ天才の未発表の理論が、次々に発掘されるんだから」
忌々しそうに斗桐が――ナイチンゲールの生まれ変わりが俺を睨みつける。
「生まれた時から、誰かの身代わりをさせられるんだよ。誰かの罪をなすりつけられるんだ。君はさ――いや、君こそ、この技術を呪いたいんじゃないかい?」
「どうだろうなあ――」
俺の言葉に、斗桐が驚いた顔をする。人間らしくて嫌いじゃないよ、そういう顔。
「確かに俺はジャック・ザ・リッパーの記憶を持って生まれた。それのせいで辛い目に色々遭ったけど……いいこともあったんだよ」
ぽかん、と斗桐が俺を見る。
「俺は犯罪に鼻が利くから、色んなつまらない犯罪を止めることができるんだ。例えば、君の殺人未遂とか、ね」
「つまらない、って」
ああそうか、普通の人には俺の感覚は伝わりにくいんだね。今までこんな話をしたことがなかったから、わからなかった。
「ええとね、つまり」
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