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頭に浮かんだのは、高校時代の記憶。
山本の第一印象は悪くなかった。気さくな性格で、運動も出来て、頭も良い。自他ともに認めるクラスの人気者だった。
けれど、あいつと知り合ってしばらく経ってから。山本は、俺のことを小馬鹿にするようになった。
『なんだよ? 陸上自衛官になりたいだって? お前なんかじゃ無理無理!』
『うわ、制服の下に迷彩色のシャツなんか着ちゃってんの? だっせえな!』
この俺が、地味で運動も出来なくて成績の悪い……要はパッとしない男子だと気付いたんだろう。いつしか山本は、俺をからかうような発言をすることが多くなった。
しかし、それだけならまだ許すこともできた。実際、殴られたり脅されたりといったことは受けていなかった。だから俺は、いじめられているわけではないのだと思った。
「口の悪いクラスメイトからイジられている」だけなのだと、そう思い込んだ。
けれどあの日。
山本は、そんな俺の心を裏切った。
ふらっと俺の家に遊びにやってきた山本は、半年もの手間をかけて作った戦車の模型を勝手にいじくった。「これ、このまま店で売れるんじゃねーの?」だなんて言いながら。
それだけならまだ我慢できた。だがその翌日。俺の部屋から、戦車の模型が忽然と姿を消してしまったんだ。犯人は、一人しか思いつかなかった。
気の弱かった俺だが、これには激しく憤った。そして山本を問い詰めたが、あいつはひたすら知らぬ存ぜぬを貫き通したんだ。
しつこく糾弾しているうち、事情を知ったクラスメイト達はこぞって山本の味方をした。担任の教師も山本の側に付き、俺は濡れ衣を着せた悪者扱いとなった。
結局、俺は山本に頭を下げる羽目になった。山本は「いいよ、気にすんな」と言って、さらにクラス内での株を上げた。
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