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幸いにして、山本はろくに前も見ずふらふらと歩いている。実に好都合だ。奴を轢き殺すなら今だッ!!
だがその決意に反して、俺は急ブレーキをかけた。
「復讐に意味がない」などと急に悟ったわけじゃない。そんな安っぽい動機、三流ドラマだけで十分だろうが。
止めたのは、俺の頭の中に「ある疑念」が浮かんだからだ。
確か「デコトラに轢き殺された奴は、すべて例の女神のところへ送り込まれる」と、そう説明を受けている。
さらにその場合は、自由に転生先を選ばせてくれる、とも。
そして、この俺の身体はデコトラと化している。ってことは、つまり……。
ここで山本を轢き殺せば、あいつは最高の来世を選び放題になるってことじゃねえか!
ふざけんじゃねえ、俺がこんな目に遭ってるってのに、なんで山本だけが!
ふう、危ない危ない。うっかり憎しみに身を任せるところだったぜ。あとちょっと気付くのが遅かったら、今ごろ山本をパラダイス送りにしていた。
それにしてもあいつ、さっきから車道ばっかり歩いてやがる。俺がやらなくてもそのうち別の車に轢かれるんじゃねえの。
……あ。マジで轢かれた。
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