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……こうして、女神の明らかな転生ミスにより蜜柑ちゃんは黒塗りの高級車の姿となったそうだ。つーか、俺の時よりもさらに酷いじゃねえか! あのクソ女神、さっさと解雇されて底辺ユーチューバーくらいにまで身を落とせばいいのに。
ただ、彼女は俺と違って車に転生したことをむしろ喜んでいるようだった。
「この身体、どこへでもずんずん行けるから便利だよね。来世なんてどうでもいいと思ってたけど、生まれ変わって良かったかも!」
「そりゃ、人間の身体と比べりゃ馬力もあるけどさ……。蜜柑ちゃん、話聞いた感じだと女神とのやり取りもすっげえ適当だったし、変わってるよな。どうせならもっと、違う生き方を望むのが普通だろ? こことは違う世界へ行ってさ、こう……なんつーの? 例えば、世界滅亡の危機を救っちゃう勇者になるとか」
「わたし、そういうの興味ないもん」
女子小学生だと、そういうもんなのかね……。
『お兄ちゃんも、わたしと同じで身体が弱かったの?』
『え? ああ……俺は……』
思わず、言葉を濁してしまった。小さな女の子を相手に「都市伝説を信じてデコトラに轢き殺されたんだよ」なんて、恥ずかしくって言えやしねえ。
それに、自殺に対して向こうは病死だ。俺と蜜柑ちゃんは……。比較するのも申し訳ないくらいに、違いすぎる。
黙っていると、蜜柑ちゃんは『そっか、お兄ちゃんも入院とかしてたんだよね』と言ってきた。どうやら俺の言葉を同意だと判断したらしい。
わざわざ否定する気にもなれず、話を聞き続けた。
彼女の、生きた日々のことを。
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