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蜜柑ちゃんの人生は、俺にとって未知の世界だった。
家族に心から愛されて、そして死を悼まれる人間は、そう多くないだろう。不幸にも若くしてこの世を去った彼女も、その点だけは誇りに思っていいはずだ。
『わたしは結局、お父さんに何もしてあげることができなかった。それはちょっと後悔してるけどね』
いや、それは違うんじゃないのか。お父さんは、蜜柑ちゃんからたくさんの思い出をもらっているはずだから……。
『あ。でもこの身体だったら! お父さんに会えるよね! なんでか分かんないけど、今のわたしの頭の中には、日本地図がまるごと入ってるみたいな感じするもん! ここからなら、ちょっと車を走らせればお父さんの仕事場まで行けそうなんだ!』
俺もデコトラに転生してからは、交通ルールのみならず日本中あらゆる場所の地理感が頭に入っている。それは彼女も同じだろう。なので行き先さえ決まれば、どこへでも行けはするだろうが……。
まさか、蜜柑ちゃんはこの姿のまま、お父さんに会いに行くつもりか?
『行ってもいいが、この身体じゃあお父さんとは話もできないんだぞ』
『いいよ、お父さんを遠くから見るだけでじゅうぶん』
ま、しゃあねえか。それくらいだったら俺も付き合ってやろう。
『分かった。乗りかかった船だし、俺も同行していいか?』
『もちろん! それじゃ、出発しんこーう! 行き先は、谷岡組でーっす!』
高級車に、谷岡組……? いやいや、そんなまさか。
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