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「此処は、寄る辺無き死者に新たなる生を指し示す場です」
神々しい雰囲気をまとった女性は、そう告げた。
ま、つまりだ。
俺は死んじまったってことさ。
「貴方様のように御自ら命の幕を引いた場合であろうと、貴賤はありません。その魂に相応しき来世を保証致しましょう。しかし……そのように若い身空であれば、何も此処へ訪れなくとも良かったのではないのですか? 楽しいこと、心躍ること。それらは生きてさえいれば味わえたはずでしょう。なのに、全てを不意にしてまで此処へ訪れるとは。いったい、貴方様はどれほど艱難辛苦に満ちた人生を送っておられたのやら……」
女性は憐れみと蔑みの入り交じったような表情を浮かべている。初対面からそんな顔をされると、こちらとしても複雑な気分になるんだが。
ただ、ここが死後の世界とすれば、すべて噂通りだ。相手は「女神様」と見て間違いないだろう。
だって、見るからに気品と優美さに満ち満ちた、とびっきりの美女なんだもの。
それに何か神っぽいジャラジャラした首飾りとか着けてるし、用途不明な謎の円盤も持ってるんだ。こんな人が普通に出歩いてたら、気合いの入ったコスプレイヤーとしてネットで話題になるか、警察官に職務質問を受けるかのどちらかだろう。
「貴方様は、あの『都市伝説』に希望を見出し、その命を擲った。相違はありませんか?」
俺は力強く頷いた。無論だ。その選択に後悔など無い。
「しかし、病に苦しみ人生に草臥れきった末での自害ならまだしも、貴方様のように若くて健康な御方が……。いえ、思えばここ最近ではそれも、さして珍しいことでは無いようですが……」
だろうな。俺に限らず、若いってのに早々と人生に見切りを付けちまった、賢明な大馬鹿野郎ってのは多いはずだ。
そんな奴らの中でも、俺の人生ってのは特段にクソだ。
肥溜めを煮詰めて煮詰めて練り上げた、そびえ立つクソの巨塔。
だから誰も羨まない。
誰も見向きもしない。
死んだところで、誰も思い出してはくれない。
……っと、今の俺にはそんなことなんてどうだっていいんだ。もう二度と思い出すこともないであろう過去を振り返ってどうする。
だいたい俺は、さっきからずっと腹に据えかねているんだ。この女神様はずっとこんな調子だからな。
言ってやるなら、今だ。
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