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しかし、そこまで分かっていても。
俺は、蜜柑ちゃんのお父さんに伝えたかった。
生きて、生き延びてくれ、と……!
そばにいる蜜柑ちゃんは、お父さんが早死にすることを望んじゃいない。辛くても、元気に毎日を過ごしてほしいと思っているはずなんだから。
「おい、お前……。それ、怒っているのか?」
蜜柑ちゃんのお父さんは、妙なことを言った。怒っている? 俺が?
「毘沙門天のお怒りとでも言うつもりかよ?」
どうやら、俺が意識的にか無意識的にか、デコトラに毘沙門天が描かれた側の電飾を光らせていたようだ。それが、お父さんには「怒っている」ように見えたんだろう。
「はっ! 言いたいことがあるなら車から降りて自分で言えよ。ずっとドアのロックかけたままにしやがってよ!」
それが出来れば苦労はしない。車内を見られて無人の車であるとバレるわけにもいかないし……。
と、急に黒塗りの高級車の扉が開いた。
「そっちの車も、デコトラ野郎の連れか? 扉を開けたんなら、話聞かせてくれや」
お父さんが黒塗りの高級車に乗ったとたん、扉が閉まった。そしてその場を走り去ってしまった。
蜜柑ちゃん、どういうつもりだ!?
俺はすぐさま後を追いかけた。
『蜜柑ちゃん! どこへ行くんだ!』
問いかけると、ややくぐもった声が帰ってきた。
『もう見てられないよ……。わたし、お父さんとドライブに行くの! そうすれば、きっとお父さんも元気出してくれるから』
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