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車中に居る蜜柑ちゃんのお父さんの声も聞こえたが、最初はひどく動揺していた。当然だろう、急に拉致されたようなものなのだから。けれど、車内に子供向けの朗読ラジオが流れるようになってからは態度を改めた。
「これ、蜜柑が好きだった番組じゃねえか……。それにこの車、よく見たら俺が普段使っているやつと寸分違わず同じだ。どうなってやがる……?」
それ以降、お父さんは黙って身を任せるようになった。車が無人で動いていることについては今も不思議がっているようだが。
そういや、向こうの車内の言葉は俺の耳にも届くんだな。蜜柑ちゃんが、そうなるように意識を向けてくれているのかもしれない。
それから俺達は街中を走り、いくつものトンネルを抜けた。古びた山道にまで来ると、車の通りが一気に途絶える。
「おいおいおい……! わき目もふらずにこの旧道を選ぶなんて……」
俺の頭に刻まれている地理情報によると、この道路は近隣の人間くらいしか使わない。近くに、もっと便利で舗装の行き届いた新道があるためだ。
「この辺りはな、死んだ女房を連れてよく走った場所なんだよ。女房はたいそう酔いやすくってな。スピードを落として走らなきゃならなかった。こんな車の通りも少ない道路、出来ることならかっ飛ばしたかったんだがな。ああ、蜜柑もそのトロいスピードが好きだったっけな……」
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