黒塗りの高級車と化した幼女

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 長いトンネルを抜けると、青い海が一面に広がった。デコトラになった俺にも嗅覚は残っているようで、潮の香りが鼻をついた。海に来るなんて子供の頃以来だ。マリンブルーに圧倒されてしまう。  蜜柑ちゃんの車内から、窓を下ろす音がした。 「本当、お前は何でも知ってるんだな……。そうだよ、窓を全開に開けて海沿いを走るのがな……蜜柑は、一等好きだった……。好きだったんだよ……」  お父さんは、もう涙声だった。 「蜜柑……。お父さんはな、お前がいてくれて幸せだった。悲しいこともあったが、楽しいことのほうが遙かに多かったよ。あの日々があったおかげで、今の俺があるんだ……」 『わたしも、お父さんがいてくれたおかげで幸せだったんだよ! 最期まで、ずっとずっと! だから死ぬなんて、言っちゃダメだよ!』  二人の言葉は、決して行き交うことはない。人間と車。生者と死者。大きな隔たりがあるのだから。  けれどその言葉に、意味がないわけじゃない。  誰かが言っていた。  胸の底から湧き出た言葉をありのまま表に出すことさえ出来れば、心の泥は雪がれると。  衷心からの言葉を紡いだお父さんは、いま。救いの陽を浴びたのかもしれない。
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