黒塗りの高級車と化した幼女

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 蜜柑ちゃんたっての希望により、今度は俺の家へ向かうこととなった。  今、蜜柑ちゃんは俺の荷台に載っている。交通ルールは知っていても、やはり相手は幼女。一人、もとい一台のまま目を離すのは危なっかしい。  走行中、俺は実験を試みた。  まず、車中に音楽をかける。演歌やら軍歌やら、そういうジャンルのものしかなかったのは当然と言うべきか。 『蜜柑ちゃん。俺の車内の音楽、聴こえるか?』 『んーん。なんにも。なんで?』 『いや……それなら、いいんだ』  蜜柑ちゃんの車中にいたお父さんの声が後続を走っていた俺の元にも届いたのは、やはり特別なことだったんだ。  この後、俺が蜜柑ちゃんの方へ意識を向けると『あっ! なんかヘンな歌が聞こえてきた!』と言ってきた。  その後も実験を繰り返した。それで分かったことをまとめてみる。  俺と蜜柑ちゃんは離れていても会話が出来るし、聴覚を共有することも出来る。こちらの言葉は人間には伝わらないが、人間の声はある程度離れていても聞くことが可能。  受動的な部分には長けているが、能動的な部分に乏しいことが改めて浮き彫りとなった。 『ねえおにいちゃん。うんうん唸ってるけどどうしたの? おにいちゃんの家に行くんでしょ?』 『あ、ああ。そうだな。行かなきゃな……』 『おにいちゃんのおうち、どんなかなー!』  太陽のように明るい蜜柑ちゃんの声に対し、俺はどんどん気持ちが重くなっていった。今置かれている状況が悪すぎるというのもあるが、それ以上に……。
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