二人の物語の始まり

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「……それほどの痛みでもありませんでしたから」 「痛みで気を失うくらいなのに、それほどの痛みでもありませんでした? 参ったね。だいたいいつ、なんで、こんな怪我をしたんだ!?」  沢井の端整な顔で凄まれて、黒崎は不承不承に一週間前の事故のことを話した。 「おまえ、それ警察呼んだのか?」 「いえ」 「……じゃ、相手の車の運転手の連絡先は? ちゃんと聞いたんだろうな?」 「はい。向こうがメモをくれましたから」 「それじゃ、すぐにその相手に連絡をとって――」 「でもメモはすぐに捨ててしまったので、もうありません」 「…………」  沢井は信じられない、という顔で黒崎を見つめた。 「おまえ、それじゃ完全に撥ねられ損じゃないか!」 「いえ。撥ねられたわけではなく、ただ引っかけられただけで……」 「……黒崎、おまえな」  沢井は深々と溜息をついた。
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