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エレベーターの扉が開き、沢井の元妻である三月が乗ってきた。
彼女は沢井を一瞥すると、視線を合わさずに話しかけてきた。
「さっき、黒崎の様子を見て来たわ。眠っていたから起こさないでおいたけど。……昨夜は大変だったみたいね」
「ああ。びっくりしたよ。出入り口のところでしゃがみ込んでいるかと思ったら、そのまま気を失っちまって」
「……かわいそうに。ずっと痛みを我慢してたのね。全然気づけなかったわ」
「あの状態で、外来に出て、急患の治療にも当たって。それも完璧な仕事ぶりだったんだからな。おまけにあいつ、なんて言ったと思う? それほどの痛みではありませんでしたから、だよ? それもいつもの無表情で」
沢井は昼過ぎに黒崎と交わした会話を思いだし、溜息をついた。
「怪我の具合はどうなの?」
「もう大丈夫だろ。手術は成功したし、熱も下がって来てる。あとは安静にしていれば、若いんだ、すぐ良くなるさ」
「そう……」
三月は安堵したように、吐息を落とした。
少しの沈黙のあと、三月は今度は沢井のほうをキツイ目で見据えて、口を開いた。
「黒崎に手を出そうとしてるのなら、やめなさいよ」
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