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沢井の鋭い視線にも臆することなく、三月は言葉を返した。
「じゃあもしも、黒崎があなたを必要としたら、あなた、ちゃんとあの子を受け止めてあげられるの? あの子は相当難しい子よ」
「受け止めてみせるさ。オレは君の夫としては失格だった男だけどな。……でも、あいつ、黒崎のことだけは大切に守ってみせるよ」
「黒崎を支えたいっていう女性が現れたらどうするの? そうなったら、同性のあなたには多分、勝ち目はないわよ」
三月の少々意地悪な問いかけにも、沢井の心は揺るがなかった。
「女に黒崎を支える強さはないよ」
「あら、女は男よりずっと強いわ」
三月が心外だと言わんばかりに唇をとがらせる。
「分かってる。女は強い、すごくね。……でもダメなんだよ。黒崎を支えるには女の持つ強さじゃ無理なんだ」
「……あなたのその自信は、いったいどこからくるのかしら?」
「さあね。オレにとって黒崎は運命の相手だからじゃないかな」
沢井が言い切ったとき、エレベーターがとまった。ゆっくりと扉が開く。
沢井は三月を残して、エレベーターから降りた。
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