二人の物語の始まり

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 人の気配を感じて、黒崎は目を覚ました。  見ると、沢井が点滴を取りかえている。ふと目と目が合い、沢井がやさしく笑いかけてきた。 「悪い。起こしちまったか。気分はどうだ?」 「……ええ、はい。大丈夫です」 「熱も微熱まで下がったし、経過は順調だよ」  沢井は点滴を新しいものにかえると、傍にある椅子に座った。 「……もう、何時くらいなんですか?」  黒崎は窓の外の闇を見て、彼に聞いた。 「十一時過ぎ」  沢井は腕時計に視線を落としてから答える。この病室には時計がないのである。 「川上先生から聞きました。沢井先生、一昨日も当直だったのに、オレのせいで昨日まで泊まりになったって……。オレ、もう平気ですから、帰って休んでください」  仮眠は取っているのだろうが、やはり体はつかれているはずだ。  沢井は苦笑を浮かべる。 「川上のやつ、おしゃべりだな。オレなら大丈夫だよ。おまえは自分が良くなることだけ考えてろ」 「でも……」  なおも黒崎が言葉を続けようとすると、沢井はとてもやさしい微笑みととも言った。 「やさしいんだな、黒崎は」
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