489人が本棚に入れています
本棚に追加
沢井と目が合う度、体がかすかに触れ合う度、黒崎は今まで覚えたことのない感情に捕われて、戸惑ってしまう。
うれしいというのも少し違う気がするし、勿論、悲しいというのはまったく違う。
どんな言葉を当てはめたらいいのか、まったく分からない。
最初は、両親の愛に恵まれていない自分が、沢井のことを『父親』のように感じているのかと思った。
医師としてのキャリアも腕も格段と上にいて、一回り年上の彼に。
確かにそういう面がまったくないとは言えないだろうが、それでもやはり、自分のこの感情は、そんなものじゃないような気がした。
そう、この気持ちは……、
……切ない……?
不意に黒崎の脳裏にそんな言葉が浮かんだが、その言葉の響きはあまりにも曖昧すぎて……。
沢井の姿を見る度、謎は深まり、結果、食が進まない。
ここ数日はそんな繰り返しだった。
青空に鳥が楽しそうに舞っている。
ぼんやりとそれを見ていると、
「黒崎」
後ろから沢井の声が聞こえた。
最初のコメントを投稿しよう!