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「黒崎」
風にかき消されてしまわないように、少し大きめの声で呼びかけると、一瞬、黒崎の体が小さく震え、それからゆっくりと沢井のほうへ振り返る。
相変わらずの愛くるしい顔。
その美貌は何度見てもドキッとする。
――当の本人こそ知らないことだが、このところ黒崎目当てに外来に来る患者が多いそうだ。
『担当が黒崎じゃないって分かった途端、あからさまにがっかりした顔しやがるし、はっきりと黒崎先生と変えてよー、って言いやがるやつもいる。それもほとんどが、これくらいで病院に来るな! って言いたくなるようなのばかりでさー』
数人の医師たちが苦笑混じりに話しているのを耳にしている。
黒崎目当ての患者は、ほとんどが女性らしいが、中には男性もチラホラいるみたいで、沢井も心穏やかでいられない。
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