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「……っ……」
黒崎は落としたボールペンを拾おうと身を屈めた瞬間、激痛が左脇腹から肩にかけて走るのを感じ、思わず息を詰めた。
少しずつ息を吐き出していきながら、痛みが治まって来るのを待つ。
鋭かった痛みが、徐々に鈍い痛みへと変わっていく。
……やっぱり肋骨でも折れてるのかもしれないな。
初めは痛みなどほとんどなかったのに、ここ二、三日になって鈍痛がし始め、ときどき鋭い痛みが起きるようになっていた。
一週間前のことだった。
黒崎は当直の帰り、自宅のワンルームマンションへと続く一方通行の狭い道で、車に引っかけられ、地面に叩きつけられた。
激痛に見舞われ、倒れている黒崎の元へ、運転手が蒼白な顔で駆け寄ってきた。
「大丈夫ですかっ!? 今、救急車を呼びますからっ」
黒崎より少し年上だと思われる運転手はスマートホンを取り出したが、その手がガタガタと震えている。
地面に叩きつけられた瞬間こそ、激痛に襲われたが、既に痛みはかなりマシになっていた。
震える手でスマートホンを操っている男性を黒崎はとめた。
「……オレなら大丈夫ですから。もう行ってください」
「でも……」
黒崎は立ち上がると、服の汚れをはたいた。痛みはほとんど治まっている。
躊躇する男性に背を向けると、黒崎は自宅マンションへと歩きだしたのだった。
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