二人きりの全快祝い

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 程よく空調が効いていた病院から一歩外に出ると、残暑のムッとした空気に包まれた。  日中の熱気は夜になっても行き場がなく、その場に停滞しているようだ。  暦の上は秋でも、まだまだ暑い。 「おまえって、汗かかないのな、黒崎」 「そんなことありませんよ……」  実際、シャツの下は汗をかいていた。ただ顔には汗をかかない質なので、そう見えるのかもしれないが。 「そうかー? おまえ見てると、涼しげで、こっちまで涼しくなってくるよ」  そんなふうに言って笑う沢井のほうこそ、ほとんど汗をかいておらず、端整な顔はどこまでも涼しげだ。
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