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沢井の行きつけだという店は、バスで三駅のところにあるらしい。
バス停までの道を歩きながら、
「オレの隠れ家的な店でさ。他の誰も知らない。飲み仲間の川上でさえ連れて行ったことのない店だよ」
そんなことを沢井に言われて、胸がなんだか甘く疼いた。
「……そんな店にオレを連れて行っていいんですか?」
「他の誰にも言うなよ?」
沢井は切れ長の目を微笑ませる。
……どうしてこの人は、こんなに優しい瞳で、オレのことを見るんだろう……?
黒崎は甘く疼く胸や、解けない謎に溺れてしまいそうだった。
と、不意に沢井がぽつんと呟いた。
「おまえだから連れて行くんだよ」
「……え?」
「おまえだけだよ、黒崎」
「沢井先生……」
胸が張り裂けそうなくらい鼓動が速い。
沢井の言葉の真意が知りたかった。
でも、黒崎が言葉を探しているうちに、二人はバス停に着いてしまった。
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