ポーカーフェイスは振り向かない

二人きりの全快祝い

　黒崎は電車通勤のため、そのバスに乗るのは初めてだった。
　車窓の向こうを見知らぬ景色が流れていく。
　バスは混んでいたので、並んで立つ二人の肩が自然と触れ合う。
　沢井先生の肩が触れてる場所が熱い……。
　その感覚にずっと浸っていたいような、逃げ出したいような、どちらなのか黒崎にはよく分からなかった。
　自分の心だっていうのに、どうしてこんなに不可解なんだろう……？
　黒崎は途方に暮れる気持ちだった。