490人が本棚に入れています
本棚に追加
三つ目の停留所で降りると、店はすぐそこだった。
小さな店で、よく気を付けていないと、そのまま通り過ぎてしまいそうな佇まいである。
居酒屋『画廊』、それが店の名前だった。
沢井がカラカラと軽い音を立てて扉を開け、中へ入り、そのあとに黒崎も続く。
コップを磨いている店主と思われる男性が顔を上げた。
「いらっしゃい。……やあ、先生、久しぶりですね」
店主は沢井を認めると破顔し、後ろにいる黒崎にも会釈を送ってきた。
外観通り、それほど広い店ではない。
カウンター席が五つとテーブル席が三つあるだけだ。
だが、黒崎は店内を見て、店の名前の意味を知った。
その店は壁という壁に絵が飾られているのだ。
水彩画から油絵、パステル画など、さまざまな作風の絵でスペースが埋めつくされている。
これでカウンターやテーブルがなければ、まさしく画廊である。
最初のコメントを投稿しよう!