二人きりの全快祝い

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 三つ目の停留所で降りると、店はすぐそこだった。  小さな店で、よく気を付けていないと、そのまま通り過ぎてしまいそうな佇まいである。  居酒屋『画廊』、それが店の名前だった。  沢井がカラカラと軽い音を立てて扉を開け、中へ入り、そのあとに黒崎も続く。  コップを磨いている店主と思われる男性が顔を上げた。 「いらっしゃい。……やあ、先生、久しぶりですね」  店主は沢井を認めると破顔し、後ろにいる黒崎にも会釈を送ってきた。  外観通り、それほど広い店ではない。  カウンター席が五つとテーブル席が三つあるだけだ。  だが、黒崎は店内を見て、店の名前の意味を知った。  その店は壁という壁に絵が飾られているのだ。  水彩画から油絵、パステル画など、さまざまな作風の絵でスペースが埋めつくされている。  これでカウンターやテーブルがなければ、まさしく画廊である。
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