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「オレ、黒崎に、沢井には気をつけるように、それとなく言っておこうかな……」
小さく呟いた川上の言葉を、沢井の耳は聞き逃さなかった。
「川上、黒崎に余計なことを言ってみろ。おまえの過去の女関係、みーんな今の彼女にばらしてやるからな」
細くて長い指先をピシッと川上のほうへ向けて脅しをかける。
「うっ……、分かったよ」
沢井と川上は大学時代からの親友同士だ。川上の昔の女性関係のことは、よく知っている。
逆に言えば、川上も沢井の華麗な恋愛遍歴を知っているわけだが、なぜだか沢井には、その手の脅しは効かないのだ。
「でもなー、沢井。黒崎はなんか繊細そうだから、おまえの遊び相手には向かないと思うぞ」
「……誰が遊び相手だって……?」
親友の失言に、沢井は射るような目で川上をにらんだ。
天使のような美貌の黒崎と比べて、沢井は鋭く冷たそうな美形である。
整った顔をしているからこそ、沢井が怒ると迫力があるのだ。
「沢井……」
川上は沢井の剣幕に少し臆してしまう。
「オレは黒崎のこと、本気だよ」
沢井の声は怖いくらい真摯なものだった。
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