he said,「smack you one」

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レンタカーは高くて手続きに手間がかかるし、そもそもライセンス更新なんか面倒臭さの極み。今はしたくない。 結局タクシー一台を拝み倒し、運ちゃんに金を積んでの移動になった。 やつが世捨て人よろしくへんぴな場所に住むことなく、国道沿いに住まいを構えていたのが、ホントありがたい。 「え、家がはっきりしない? その友だちとは、何年ぶりに会うの」 「何年経つかなー、思い出せないよ」 予告なく行くと言うと、この運ちゃんは「そんなんで大丈夫かい?」と心配してくれた。 道中馴染んできた運ちゃんと、観光地ならではの案内話や時事ネタを織り交ぜながらの会話が弾む。日本語を長らく話してなかったのをどこで見抜かれたのか、海外生活は長いのと訊かれ、そうだねと答えた。 会話が途切れた頃、長閑な風景を眺めながら窓を少し開けた。 エアコンが寒いくらい効いた車内に、南国のぬるい風が流れ込んでくる。 海風まじりの空気を吸って、目を閉じた。 もうすぐだ。 押しかけて行けば何とかなるってのは、甘い想像だったのかもしれない。 現実は、ほろ苦いものだった。
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