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ここは穏やかで居心地のいいところだったけれど、そろそろ違う景色が見たくなった俺は次はどこへ旅に出ようかと考え始めた。
そんなある日のこと。
「サエキさんって、どのくらいの間恋人いないの」
口でしてもらっているときにそんなことを訊かれて、元々作らないほうだと答えた。……頭を上げた彼の、信じられないものを見る顔つきったら。
「何だよ、悪いのか」
「……それって寂しい人生じゃない?」
「さすが、アモーレの国の男だ――でも君が言うのかい」
「今は、恋人募集中」
だからサエキさん狙いだって言ったじゃないと言い返されて、窮地に追い込まれた。
「じゃあ、昔、すごく好きになった人は?」
「……いるよ」
迷わずに思い出すのは、彼奴のこと。
昨日会ったばかりのように、やつの顔も、声だって、すぐ思い出せる。
――やつを思い浮かべてぼんやりしていると悟ったのか、それが気に障ったらしい。
「もしかして今もその人のこと好きなの? 教えてよ」
「……」
ヴィットリオの止め処がない質問の雨を、寝たふりをしてかわした。
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