祖母と孫娘

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「我が儘で自分勝手で言って良いことと悪いことの区別も出来ない……子育ても満足に出来なかったことを自ら喋ってましたしね。悪怯(わるび)れもせず。何でもゆるされると思い込んでる、お嬢様気質は終ぞ治らなかった……」 「……」 「そんな祖母のことだから、祖父にも言っていたんじゃないかって、母とも話していたんですけどね……祖母が、祖父より長生きしたのは何の因果か……」  まぁ、祖父は祖父で酒に逃げる人だったから、同情もしませんけどね。孫娘は笑う。 「ねぇ、先生?」 「……」 「『夫婦』って、何なんですかね?」  祖母が最期にそばにいてほしいと望んだのは、長年連れ添った祖父では無く、まして長らく面倒を見た家族でも無く、何らかの事情で別れてしまった婚約者だった。 「確かに、いろんな形が在りますから、相思相愛だけが夫婦じゃないとは思いますけど……少々、未練がまし過ぎやしませんか?」 「それ程、婚約者の方を愛しておられたのでは……」  機械を片付け終えた医師が、黙っていることに耐え兼ねて口を挟めば、孫娘は、はっ、と嗤った。 「違いますよ────自分のものにならなかったから、祖母は拘っていたんです。  でも恥を掻くのが何より嫌いな祖母でしたから、祖父と離婚して婚約者に縋ることも出来なかった」  もし婚約者と結婚していたら、祖母は祖父と結婚したら良かったと、再三婚約者に話すのではないか。  祖母とは、そう言う人だった。 「思い通りにならないと、よく癇癪を起こしていましたもの。案外、棄てられてたりして?」  ふふっ、と笑いを洩らす孫娘は、医師には嘲りが滲んで見えた。 「……お婆様をそこまで……失礼ですが、お嫌いなのに、そうでも、ここまでなさるんですね……」  揶揄や嫌味ではないけれど、医師には不思議だった。VR機器は安いものから高いものまでピンキリであるが、この病院で使っている機器は微細な五感まで再現する高価なものだ。浪費癖の在った老女本人には蓄えなど無く、家族がすべて金銭も出していると言うのに。  医師の疑問に、孫娘は無感情な面差しと声質で、答えた。
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