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その後、私は奇妙な光景に出くわした。
課題制作のために夜間まで大学に残っていたときのことだ。
ふいに窓の外からいくつもの犬の遠吠えを聞いた。
私はその声にどこか懐かしさを感じつつ窓を開け…息を飲む。
そこに何十体という狼の群れがあった。
どれもが墨で塗りつぶしたかのような黒色で人ほどの大きさをしていた。
そして、その中の一頭だけが赤黒い色をしている。
その狼の目元を見て、私はふと呟いた。
「墨郎…?」
その問いかけに、狼は何も応えなかった。
代わりに頭を一つふると仲間とともに裏山の斜面をかけのぼっていき、暗闇の中へと姿を消した。
…その数日後、墨郎の死体が寮の中で見つかった。
彼は飢えと乾きでやせ細り、まるでミイラのような姿だったという。
周囲には羽を広げる烏の群れが描かれていた。
奇妙なことに…すべての絵に当てはまることであったが…そこには白く、まるで抜け出したかのような狼の形だけが大量に残されていたという。
…私が見た狼、あの狼は墨郎だったのか?
本当のところはわからない。ただ確かな事は彼はあの烏の群れの中に彼自身の狼を見いだしていたのだろうという、その事実だけである…。
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