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頭の中の時間が再び動き出したのは、突然のことだった。
目の前にある闇の溜まった小路の中を、ふと、人影が横切ったんだ。
女の子の人影だった。
俺はとっさに走り出して、その子の手を掴まえた。
その子は、当時の俺よりもいくらか年下――高校生か中学生くらいの見た目だった。
けど、着てる服は少女の体のサイズには全然合ってなくて、デザインも、その年頃の女の子が着るようなものじゃなくて、そこがちぐはぐだった。
少女は俺とちょっと目を合わせて、それから俺のことを眺め回して、すぐに興味をなくしたようにふいとそっぽを向いて、俺の手を振りほどいた。
そのまま去っていこうとする少女を、俺は慌てて引き止めた。
――待ってくれ。君は、この町の人間なのか?
俺がそう尋ねると、少女は言った。
「この町の? うーん、そう聞かれると、なんて答えたらいいかわからないな。とりあえず、この町にあたしの家はないよ。どの家とったって、こんな町に住めるわけないじゃない」
確かに、そうだった。その町の家は壁がなかったり入口がなかったり、どれをとっても家としての役割を果たさない中途半端なものばかりだったんだから。
俺はまた少女に尋ねた。
――君は、この町がなんなのか知ってるの?
すると、
「……お兄さんは、ここがどんな町だと思う?」
少女は、服の触れ合うぎりぎりまで俺に体を寄せて問い返した。
そのくらい近くにこなければ、お互いの声はひどく聞き取りづらかった。
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