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「だから声をかけただろ。天井、低いんだ。その背の高さじゃ、頭をぶつける……まあ、もう遅いけど」
「最初に言うてくれ」
「いう前に上がってきたんじゃねえか」
武士ならば実家がらみかと思うが、いくら考えても顔を上げた男は知らない。
浅黒い肌に、よい意味で男臭さを感じる顔立ちをしている。女が放っては置かない、そして同じ男ならば一目おくだろう容貌だ。
母親譲りで線が細く、同じ男からは舐められ女からは愛玩動物扱いされる自分とは正反対だ。
「座っていいか?」
「あ、あ、ああ。座布団ねえから、そのへん適当に」
男が頷いて、部屋の真ん中に座る。
落ち着き払った態度は、貫禄すら感じさせる。さっき、頭をぶつけてうずくまっていたのが嘘のようだ。
相手は、明らかに自分を知った人間のように振る舞っている。
近くに座った周は首を傾げた。
「……あの」
だめだ、いくら考えてもわからない。
「どちら様で?」
男が目を見開く。信じられない言葉を聞いたと言わんばかりに。
……やっべ、本気で知り合いかな。
けれど相手はあせる周を詰るでもなく、
「笹原兵庫」
「笹原……ああ」
名前を聞けばすぐ分かる。
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