さようならはあたしから

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 秀ちゃんの黒いビッツが現場に停まっていた。  毎日、毎日、この現場の前を通るのは意図的だ。仕事に行く道だと言えば、そうなのだけれど、いちいち遠回りをして車がないかな、と、期待を抱きながら通っていた。  もう、このコンビニも竣工をむかえる。なので、ここで秀ちゃんの車を見ることなどはもう絶対にない。  なので、今、あたしはひっそりと隠れて秀ちゃんの車の前で待っている。  別れを告げるために。あるいは別れを告げられるために。すっかり日も沈んでいる。18時を少しだけ過ぎたところだ。秀ちゃんの後ろのドアが開いている。工具をたくさん積んでいて、すっかり作業車になってしまったビッツ。  ビッツはこの12月で初の車検だ。3年前、購入をしたとき助手席に最初に乗ったのはあたしだった。  奥さんでも誰でもなくあたしだった。  懐かしいと、思う。反面思い起こすと泣けてくる。そのころに戻りたい。禁忌な2人だとわかっていても愛し合ったという事実。あたしは絶対に愛されていた。少なくともあの頃は。  この2ヶ月前からメールがおもしろいほど少なくなった。会う回数は10日に1回はあっていた気がする。あいたいよ、うん、わかった、うちにきて、うん、わかった。あいたいとメールをすれば、必ずあっていた。そうして抱かれた。  愛を享受する最大の確認は身体を重ねること以外みつからなかった。  抱き合ったあと、あたしは言葉を求めた。 「好きなの?」  秀ちゃんはこの言葉を聞くたび、うつむき、口を一文字にした。裸になったときだけは素直になるくせに、洋服を、作業服をまとったせつな、我に返ったようあたしから離れた。心と身体がいつも乖離していた。 「お願い。好きっていって」  食い下がる。けれど、その懇願は毎回不毛だった。言葉が嘘でも欲しかった。  なので裸でいるのを好んだけれど、秀ちゃんはすぐに洋服を着た。そうして何事もなかったかのように、帰っていった。秀ちゃんが帰ったあとの温もりと匂いが容赦なくあたしを苦しめた。そうしてまだほんのりと残った温もりの布団の中で丸まり、容赦なく涙を流した。  秀ちゃんのことでどれだけの涙を流したのだろう。この4年間の間。 「あ、」      
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