憎しみ。

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憎しみ。

 時計はPM10時を回っていた。  玄関のドアが開く音がした。祖母が帰宅してきた。  俺も優美も、あえて何も言わなかった。  こんな事はいつしか普通になり、慣れっこにさえなっていたから。  俺と優美が小学生の頃までは、まだまともに飯も出たし帰りも今よりは早かった気がする。どんどん帰りも遅くなり、飯もたまにしか作らなくなった。  それでも俺と優美は文句が言いにくかった。親に見捨てられた2人を引き取ってくれた祖母。  いくら好き放題やろうが、子供の俺たちには解決法が見つからなかった。  ギャンブル依存……。  例え俺たちの学費を払って貰えなくても、飯がない日が続いても、それをどうしたら良いのか分からなかった。  だけど、不思議と祖母の事は、それでも嫌いになれなかった。母にも父にも、会ってみたいとすら思わなかった。  会ってみたらを想像すると、殺してしまいそうな気がした──。  授業参観も運動会もお弁当持ちの日も、すごく嫌いなんだ。そうゆう日だけ思い出すよ、顔も知らないけど。  そうゆう日は思い出して、会いに来たら殺してやる……。そうずっと思ってたんだ。  テレビの再会みたいに、会いたかったとか寂しかったとか、一言も言わないんだ。
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