212人が本棚に入れています
本棚に追加
淡い期待。
予約席の皿を並べ始めた頃、笹野が隣に来て一緒に皿を並べはじめた。
笹野は野田グループといつも仲良くしている。俺や翔太とは、特に仲良くしていなかった。
あいつらとは反りが合わない。
だけどバイト先ではお互い気を使ってか、たまに喋る事はあった。
「正夫……さっきの話しさ、聞くつもりじゃなかったんだけどお前ん家、そんな厳しい状態なのか?」
「ん?あぁ、別に……」
俺は笹野の目も見ずに皿を数えていた。興味を持たれたくないし関わりたくなかった。
金持ちでお調子者の野田グループにいる笹野の事を、俺は信用していなかったからだ。
「正夫、苦労してるんだな、なんか見直したわ。じゃあさ、野田に言ったゲームの話し……あれ、嘘なんだろ?金無いなんて言いにくいしな。にしても学費自分で払うって大変そうだな……」
「え……まぁ。言いにくいし
恥ずかしかったのもあるし……」
俺は笹野がバカにしてくると思い込んでいたから、思いがけない言葉が来て、素直に言葉を返していた。
別に、誰かに同情されたかった訳じゃない。同情はむしろ大嫌いだ。
だけど、誰かに頑張ってるって思って欲しかったのかもしれない。
お前、頑張ってるよ!そう言われて嫌な気はしなかった。
「ゲームの事さ、気にすんなよ。野田には俺が上手い事言っといてやるわ!きっとあいつも、からかいたいだけだからさ」
「笹野、悪りぃな、ありがとな。助かる……」
見てる奴は見てくれていた。
俺は俺自身が色眼鏡で見られるのを嫌う癖に、同じ事をしていたのだろう。ひとつの不安が消えた気がした。明日、翔太に話そう。
家賃も学費も生活費も……片付かない事は山程あるけど。とりあえず、ひとつずつだよな。
最初のコメントを投稿しよう!