見え見えの見栄。

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見え見えの見栄。

 チャイムの音が響く中、俺たちは教室に入った。 「全然間に合ったな!」  翔太がロッカーにボストンバッグを投げ入れながら、こっちを見た。  俺は頷き、席に着こうとしていた。 「正夫!」  振り向くと、担任の吉田が何かを手にして近づいてきた。  俺はその何かを見慣れすぎて、もうそれが何かを知っている。  黄色い封筒。  ──あれは。  俺はその封筒を、当たり前のモノを受け取る自然な感じで机にしまった。 「お前んち、学費毎回引き落とせないのか?」  前髪をふざけたゴムで結んだ奴が言った。  野田だ。  クラス1のお調子者で家が金持ちな奴だ。  俺は答えた。 「今回さ、あのゲームでただろ?ハンターの最新版!あれ、我慢出来なくてさ。学費くすねて買っちまったんだ」  俺は笑いながら、そしてどこか余裕のあるふざけを見せるような仕草で、野田にそう言った。  野田は天井を一瞬見て、それから仲良くしている笹野と目を合わせてから俺に言った。 「ほー。それは羨ましいわ!貸せよ。すぐ返すからさ」 「うん、いいよ。今、翔太に貸してるんだ。来週な!」 「おう!ありがと。楽しみだわ」
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