浄土の山里

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デパート店員の「いらっしゃいませ」という、やたら明るい声の壁を通り抜け、エスカレーターへと直行する。 3階まで行けば、以前から目をつけていたトレンチコートがある。 欲しい物の為には、空腹も疲労も厭わず、労力を惜しまない。 まるで、恋人との逢瀬の場所へと、ただ一心に向かうようだ。 手に入れた代物が、可愛いロゴ入りのビニールナイロン袋の中で、小さく折り畳まれ、スポンと包まれて、私の左手に軽くぶら下がっていた。 この冬は、このスカイブルーのコートと共に過ごそう。
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