1人が本棚に入れています
本棚に追加
言うなれば四面楚歌であった。
突然の襲撃に備えはあったはずなのだが、その悉くを破られみるみるうちに攻め込まれていた。混乱、混戦の中、どうにか部下達を逃がすことはできた。残ったのは戦闘経験を重ねた上官のみ、ひとりひとりが一騎当千と賞されるほどの――しかし、多勢に無勢が過ぎる。なにせ攻めてきているのはただの人間ではなく、吸血鬼だ。
深桐とショカは退かぬと言い。
望むのであればキミ達は混乱に乗じて逃げよと次いだ。魔術であればこの世の中で右に出るものはいない組み合わせだ。それに深桐は格闘技の方でも師範として実践的に教えてくれたのだから、心配などする必要もなかった。落ち着いた頃に戻ってこいとだけ言う。建て直すから、と。
――だから、油断してしまったのだろう。
気付くべきだった。『早すぎる』と。
万一に備えて地下通路がある。地上では戦闘のさなかである一方、そこはひどく静かで、息遣いだけが木霊していた。
幽の歩みが僅かに遅くなり、数歩あとになる。私は気が急いていた。地下通路を抜ければ本拠地から離れた土地で、近くに住居を構えた協力者が匿ってくれるか逃がし屋として一働きしてくれるものだと思い込んでいた。
すみません、と幽が呟く。そんなことよりも早く、と言おうとした直後、私は目の前が真っ暗になった。
最初のコメントを投稿しよう!