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がたがたとよく揺れる。一瞬身体が宙に浮かぶ感覚がし、直後背中と掌に痺れるような痛みがあった。どうやら横になっていたらしい。……いや、目の前が暗いままだ。よくよく確かめてみれば手首、足首に重く冷たいものがあるようだし、手足を動かしてみれば金属同士が擦れあう音が小さく聞こえた。
目が覚めましたか、と圧し殺したような幽の声だけがした。
何があったと問うより先に教えてくれた。捕まりました、とただ一言で。
馬車に乗せられていますと言った。転がされているのなら荷台だろうか。光が当たっている感覚はしない。時折小石に乗り上げるのかがたがたと揺れ、その度に私は背中と掌を打ち付ける。後ろ手に組まされ、肘まで拘束されているようだから、受け身の取りようがない。
起こしますよと幽は言い。
私を支え、座らせてくれる。お前の手は使えるのか、と訊けば、剣は奪われたと言う。そういえばこの男、徒手空拳は護身程度の習得でそれほど得意ではなかったような気がする。鍛えてる吸血鬼の腕力には敵いません、と無念そうな呻きが横から聞こえた。
そのうちに何か……甘ったるい香りが鼻についた。どうしようもなかったのだが、不味いと思った時には既に身体に力が入らず、瞼まで重くなってきて……
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