たばこ

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たばこ

昨日も一昨日も先生に怒られていたのに、サキはまた屋上でタバコを吸っていた。雲一つない、真っ青な空に揺れるタバコの煙は酷くくすんで見えて、彼女の周りだけが遺影になったようにも見えて、嫌だ。 「またタバコなんか吸って」 私の言葉に答えるように煙を吐いて、サキは私を見た。 「吸われたくなきゃ売らなきゃ良いんだ」 冗談めかして屁理屈をこねる彼女は楽しげに見えて、いつも投げやりだ。金色の髪がそうさせているのだろうか。 「売られてる以上、私には買う権利がある」 「未成年の喫煙は法律で禁じられてるんだよ」 「実は私、成人してるんだ」 「嘘ばっかり」 そう言うとサキは「イヒヒ」と笑った。タバコのヤニで汚れた歯が悪魔みたいに見えた。 「歯、酷い色よ? タバコなんて吸ってても良いことないんだから、もう止めたら?」 「良いことないから吸ってるんじゃんか」とサキは笑った。 「肺癌に、歯周病。なんとか呼吸器疾患に、糖尿病にもかかりやすくなる。そうすりゃ早死にする。平和でしょ?」 「どこが平和なのよ」 その質問に答えるサキはなぜか胸を張った。 「誰かに殺されたり、飛び降りて死んだりするよりもずっと平和じゃない。『なんで死んじゃったんだろう』って思われるよりも『タバコなんか吸ってるから早死にするんだ』って言われた方が、残された方は生きやすいでしょ?だから、ほら。あんたも吸いなよ、タバコ」 サキはタバコの箱を私に向けた。無造作に入れられたタバコの一本が、私に向けられる。 「いらない」と私は言った。「そんなの吸うくらいなら死んだ方がマシよ」 「だからってホントに死のうとするこたぁないでしょうよ」
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