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「いいや。悪くないよ」
彼がふふと笑うと、その振動が直接しもべの本来流動する身体をふるわせる。
「おれが、おまえがあたたかくてよかったと思ったら、おまえたちはおれに失望するか?」
「いいえ、ルカー様。我々があなたに失望することなどありません」
「フレン」
「は?」
「おれの名前だ。かつての」
「――――フレン様」
「ああ」
満足そうに微笑んだ彼の腕の中で、黒い獣はゆらゆらとうごめき、徐々に黄金色の膠化体状のかたまりに形を変えた。
あるじが不思議そうに見つめる中、膠化体から再び形を変え、それは最後には人間の青年の形をとり、彼の主人たる少年を二本の腕でしかと抱きしめる。
「急にどうしたんだ?」
「あなたをあたためるのであれば、この方がより効果的かと」
「なるほど」
少年はまたふふと笑った。
「しかしそういう場合は普通、女の人になるものではないか?」
「その方がお望みならば」
「いや。べつにこのままで構わない」
「そうですか」
「おまえがミリナイの生物をそのとおり模すのだとしたら、男性の方が合理的だな。脂肪が少なく、筋肉量が多い」
「はい」
「あたたかいよ。ありがとう」
***
それは困難な仕事だった。
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