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ナディーラには、答えられない。
「彼はきっと、大事なものは皆その手にあるということを知らない。人らしいものだな。持っているものの尊さには気づけない」
「ルカー様」
「心配しなくていい。おれは役目を放り出したりはしないし、おまえたちを見捨てたりもしない」
「そのような心配はしておりません」
「そうか?」
「無論です」
もとよりその忠誠を疑ったわけではなかった。
だが人ならざる従僕が、人のようにそれを気にかけるのがどこか可笑しくて、ルカーは少しだけ微笑んだ。
「タイミングが違えば彼がルカーだったのだろうか?」
「それは、わかりません」
「おれは、それでもおれだったような気がするよ。彼はきっと、20年と保たず飽いてしまうだろう」
ルカーは、ゆっくりと瞬いた。
「だから彼ではなくおれがルカーなのだ」
もう一度瞬く。
「おれは彼ほど欲張りじゃない。長い孤独にも、おまえたちがいれは充分耐えられる」
あるじはそう言って微笑んでみせたが、ナディーラはどこか穏やかではいられなかった。
「コトネ様のお宅へ帰りたいとお考えですか」
コトネというのは、ルカーがミリナイで世話になっていた親戚の家の名だった。
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