1.

6/10
前へ
/37ページ
次へ
尾が二つあるように見えるが片方は触手だった。 彼は、少年の忠実なる従僕だ。 あるじの起きる気配に、首をもたげる。 「お目覚めですか、ルカー様」 「おはよう、ナディーラ」 ルカーは上体を起こした。 時計の方を見ると、ちいさな青い花が飾られていることに気づく。 「これはおまえが?」 「はい。差し出がましいまねでしたでしょうか」 「いや。驚いた。花瓶などあったんだな」 「先代の持ちものに」 「彼女はもの持ちだな。花はどうしたんだ?」 「ミリナイに降りましたおりに。あなたの瞳の色と同じ色でしたので」 「ふ。まるで口説き文句ような言いまわしだ。どこで覚えるんだ?」 「お戯れを」 「次は、手折らないであげてくれ」 「はい。申し訳ありません」 「謝らなくていい。怒ってはいない。感謝はしている。とてもきれいだ」 「はい」 「それで、おれはどれだけ寝ていたかな?」 「9日と2時間39分です」 「寝過ぎたな。そのあいだに問題は?」 「お手をわずらわせるようなことはなにも」 「ならよいのだが」 「必要ならば、ディヴァーギルが黙って寝かせておいたりはしません」 「そうだな」 「お着替えをなさってください。朝食を準備いたします」 「たのむ」 “観測者”の役目は、ルカーだたひとりで行われるわけではない。     
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加