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オーキッドが差し出した暖かいスープは体に染みて、ほっと息をつく。
これからどうしたらいいのだろう。今日一日は安静に、なんて言われたけど、そうはいかない理由がある。夕方には帰らないといけない。
「瀬戸、サマ、」
「ん、ん?なんだい、」
「今日はお泊マリに、なって下サイ、御主人様……ノ、御命令、です、」
「いや、それは流石に止めておくよ、」
「御命令、デ、す」
「……やめて、顔こわい、近い」
壊れたロボットの如く、御命令、と言って聞かない血液人形は、回りの雰囲気も相まって本当にホラーである。
これは何を言っても聞かなそうだ。仕方がない、と考えて顔に無理矢理笑みを作る。
「わ、解りました、泊まっていきます……」
「ありがとう、ゴザイマス」
途端に笑顔になって離れて行くオーキッドに息を吐き出し、手に持つスープを飲む。
飲みながらオーキッドを盗み見ながら思う事。
言っとくが、俺だって吸血鬼だぞ。
スープの後に消化の良さそうな食べ物が沢山出てきて粗方食べてから業とらしく欠伸をする。
「あぁ、何だか眠いな、おやすみオーキッド、」
「ハイ、おやすみ、なサイ、」
布団を頭まで被ってじっとする。食器を片付ける音、部屋から出ていく音、扉が閉まり、部屋がシン、となる。
「ぐぬぬ、」
あぁ、久々のこの感覚。回りの景色がどんどんでかくなる。いや、自分が縮んでいる。
バタバタ、と手足を動かす。 フサフサとした小さくて真っ黒な手足。
「人間から蝙蝠になれるなんて、吸血鬼の神秘だな……」
多分端から見たら今の俺は、モフモフした、ちっこい蝙蝠であろう。
「よしよし、オーキッドも、いない、確認、よし」
布団から這い出てピッピッと何処かの監視員さながらに手を扉に向けて続いて半開きの窓に向ける。
加速して羽をバタバタ、いざ、窓の外へ!
だが意に反して、久々の大変身で思うようにバランスがとれず、上にある窓の方を向いたまま小さな蝙蝠は、そのまま目の前にある壁にビターン!!と体を打ち付けた。
「……、練習、練習、」
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