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「パパ、虫にさされてるよ」
「?どこ?」
「首のとこ」
小さな手を繋いで一緒にアパートの家に帰り、扉を開ける。スーツのジャケットを脱ぎ、横に掛けてあるエプロンをしてカイの着替えを手伝ってから夜御飯を作った。スプーンで一生懸命黙々とチキンライスを口に運ぶ様は見ていて楽しい。のだが、言われた事に急いで首を片手で隠し、鏡まで走った。
「、、何て事だ」
生々しすぎる吸い痕に項垂れる。塞がった傷痕のような、それ。不意に吸引された時の快楽を思い出して首まで赤くなる。
あぁ、畜生、吸血鬼が吸血鬼に襲われるなんて。そしてこれから、それに気を付けなくてはいけないと思うと憂鬱になる。きっと明日は今日の事を何か言われる。けれどそれはそれで好都合かもしれない。レキトが俺に不満を抱けば、彼の秘書なんて仕事は外されるだろうし。
取り敢えず応急処置で絆創膏を貼っておく。それから、念の為明日はネックウォーマーか何かしていくかと溜め息を吐いた。
「パパ~!見て、食べた」
「おお!偉いなカイ~全部食べたな、」
「カイ、お片付け、手伝うよ」
「ありがとうな、じゃあ洗うから、カイはお皿のお水を拭いて貰おうかな」
「うん!」
一粒残らず綺麗に食べた皿とスプーンを持って洗面所まで走って来たカイに心が温かくなる。
「ママにも言ったの」
「ママ、何か言ってたか?」
「わかんない、パパは?きゅうけつき、だからママの声、わかる?」
「いや、流石に……ま、でも、えらいえらい、って言ってるよ、きっとね」
部屋の一角にある、笑う彼女の写真。唯一愛した人は、この世にもういない。彼女は人だった。笑顔の素敵な、芯の通った強い人。
太陽の似合う、美しい人だった。
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