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どんなトリックだかは知らないが、完全にさっきまでいた廃墟でない事は確かだ。目の前のレキトは舌舐めずりをして、ニヤリとする。
恐怖と興奮がない交ぜになって、目眩がした。逃げようと思うのに体が動かない。独特の甘ったるい匂いが部屋に充満していて、喉が動いた。
「何か……そう、何かあるとは思っていた」
「……ッ」
「本能に従えない何かが」
首筋にレキトの掌が這わされる。
彼の瞳に見つめられ、煌めく瞳の奥に燃える支配欲にゾクゾクとする。
「アァ……、」
「美味そうな匂いがする……大丈夫だ、身を任せろ……」
ただ、その熱に翻弄されてしまえと。
僅かな意識を手繰り寄せて抵抗を、と考えた。
けれど遅かった。首筋にひたり、と当てられたのは……牙だ。
「ァッ、い、いぁッ、!」
「……」
吸血した快楽の余韻が残る中、今度はレキトに吸血される。牙が中に入る。暴れようとした体が強張って、他緩する。突き飛ばそうとしていた手がレキトにしがみついて、震えた。
吸われる。吸われている。その事実か怖かった。
「ひ、ッ、」
「……怖がるな……快楽だけを追え……」
「んん、ッぅ」
汗が尋常じゃない。血の気が引いていく。最初に吸われた時の比じゃない。
「ァッ」
「私の指を噛め」
「やら、ァふ、ッ」
「そうか?なら無理にでも吸わせてやる」
至近距離で、宝石みたいな煌めく赤い瞳が細められた。綺麗だ、なんて場違いな事を思った一瞬、危機的状況の中、本能のように突き出ていた牙にレキトの親指が刺さる。刺されば勿論、血が滴り、舌に乗る。
「ンン、ーッ!!」
「そうだ、良い子だ」
じんわり広がった、甘い血液は引いた血の気を戻していく。
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