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だがまあ、出された食事に罪は無い。見た所普通だし。多少の反論を込めてフォークだけ取って皿の上のパンケーキを口に押し込んだ。食事が済んだら直ぐにでも仕事の話をしなければ。驚いて、怖がっている場合じゃない。期間で担当を外してくれると解っていても、レキトの今の担当は俺なんだから。
「良い食いっぷりだ」
ニッコリ、笑ったレキトが、けど次には視界がぼやける。
あれ、何だ?
口の中に押し込んだ物を胃に流し込んで、目を擦る。体が火照って、フワフワしてくる。
「どうした?プロデューサー、気分が悪そうだな、寝室に運んであげようか」
「っ、レキトっお前、」
涼しげなその言い草に、奴に何か仕込まれたのだと瞬時に悟る。パチリ、とレキトが指を鳴らす。景色が煙のように無くなり、目を瞬く間に目の前にレキトが現れ、力の入らない体を支えるように密着した。
「ぁ、」
ギシリ、とスプリングの音が聞こえた。背を包んだクッションに、見上げたそこに居るのは、力も強さもまるで桁違いの吸血鬼。
ダメだ、何も抵抗出来ない。抵抗したとして、何も通用しないだろう。けれど、残る意地で強く睨みつけてやる。
「やめ、ろ、レキト、仕事、行くんだろ」
「それは食事が済んだら、と言っただろう」
「なら、早く食べ……ッ!」
「あぁ、食べるさ。お前の腕から、さっきからずっと良い匂いがしていた……純血、と言うのは嘘だろう?」
「、ッひ、」
話している間にネクタイを緩められ、シャツのボタンを幾つか外されて、首筋に整った顔が寄る。
本気だ。本気で、吸血鬼である俺の血を吸う気だ。その事実に、ゾクリ、と背筋が粟立ち、冷や汗が伝う。
「ッ何で、俺みたいな吸血鬼の血なんか吸わなくても、お前なら、簡単に人間の血を吸えるだろッ」
「人の血を隠れながら吸うより、吸ってくれ、と懇願されながら吸う方が簡単でいい。支配欲も満たされる」
心底意地の悪い捻じ曲がった性格だ。畜生、関わるんじゃなかった。そこまで危険な奴じゃない、と心の奥で思っていたのも間違いだった。今売れっ子の大人気のレキトのプロデューサーになれる、ってのは、確かに自分の描いていたプロデューサー像ではないにしろ、少し楽しみでもあったんだ。
「嫌だ!やめろ!」
「何、怖いのは最初だけだ……その内必ず俺に血を吸ってくれ、と懇願するようになる」
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