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やがてくちびるが離れても、ふたりの間を極細い糸がつなぎ、きらきらと輝いた。
唾液のようにも見えたそれは、ナディーラの身体の一部だ。
ルカーの口の中にはまだその欠片がつかまって残っていて、それとつながっている。
「お返しください」
困ったようなナディーラの言葉に、ルカーは口の中の欠片を甘噛みした。
「いたずらですね」
痛くはなかったが、むずがゆい。
なにより、あまりふざけるようなまねを好まぬたちである主人の気まぐれなたわむれをくすぐったく感じた。
「これが千切れたらどうなるんだ?」
「つながりが極限まで細くなっても千切れたりはしません。それは私の肉体ですから。とはいえ、よっぽど無理な力がかからなければ、ですが。そうならないことを望みます。千切れたら、おそらく痛いでしょうから」
思いもよらなかった想像にどこか動揺したようなナディーラの言葉は、舌の一部が欠けているとは思えないほどなめらかだ。彼の声は人と同じ構造から発せられているわけではないのがよくわかる。
一方ルカーは人の身体なので、口に膠化体の欠片がある状態ではどこか舌足らずになる。
「たとえばもし、おまえの欠片がおれの手元にあればはぐれてしまってもどこにいるかわかる、というようなことがあれば便利そうだろう?」
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