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1章 復讐のはじまり
銀のリボルバーを持った手が、ゆっくりと上がる。実弾が込められた銃口は、そのまま引き金を握ったミハエル=トーレス自身のこめかみに向けられた。
「ミハエル! やめて下さいっ!」
動きだけでミハエルが何をするのか悟った神永翔が、父譲りの青目をこれでもかというほど見開く。できることならすぐにでも飛び込んで銃を奪ってやりたい。けれど翔は「今近づくのは危険だ」と、突然現れた素性も分からない大男に二人掛かりで両脇を抑えられているため、動くことができなかった。
「バイバイ、翔。それに直稀。君たちのおかげで、僕は人生の最期を思い切り楽しむことができたよ」
涼しげな目を細めたミハエルが、翔の前に立っていた早瀬直稀に対して明るい笑顔を見せる。そしてその後、こちらに向けられた顔には、翔しか知らない――――そう、身体を繋いだ時にだけ見せてくれる、穏やかな微笑みが浮かんでいた。
こんな時に考えるべきことではないとは分かっているのに、思わずその美しさに目を奪われてしまう。それはミハエルの全てを惑わす艶やかさのせいか、それとも死の恐怖を超越した境地からくるものか。あたかも芸術品を思わせる優艶さに、翔は思わず状況を忘れて動きをとめてしまう。しかし、それが翔にとっての後悔となった。
一瞬。ほんの一瞬、息をのんだ次の瞬間。
「それじゃ、あとは皆で好きにやってね」
パンッと鼓膜を震わせる銃声が部屋に響くと共に、ミハエルの美しい金髪が赤く染まった。
見開いた瞳をまばたきで閉じるほどの短い時間に、一つの命が消える。その光景はまるで、テレビドラマでも見ているかのような感覚だった。
「ミ……ハエル? ……ッ、嘘だ、目を開けて下さい! ミハエル!」
ドサリとその場に倒れたミハエルに向かって、端正な顔を大きく崩した翔が悲鳴に近い叫び声をあげる。
これはミハエルが演じているだけと思った。そう、ミハエルは立派な大人のくせをして大の悪戯が好きで、よく完全に騙されるような嘘をつかれた。今回もきっとそうなのだと信じて疑わなかったが、何度ミハエルを呼んでも返事もかえしてくれない。
つい数秒前まで、こちらが見ていて気持ちがよくなるほど清々しい笑顔を浮かべていたのに。声をかけてくれたのに。
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