33人が本棚に入れています
本棚に追加
わかっている。最後まで責任を持てる訳でもないのに、安易に手を伸べた俺が一番悪いのだと。でも、あんなの、手に負える訳がない!
そうして俺は、最悪な気分のまま職場の最寄り駅へと向かう電車に乗り込んだのだった。
***
「十倉くん、悪いんだけど……今日も残業、頼める?」
「申し訳ありません課長。本日は、所用がありまして」
「……あ、そう……。大丈夫だよ、お疲れー」
「はい。では、お先に失礼します」
残業持ち込みマシーン(俺命名)こと、課長の依頼をさらりと躱し、俺はいつぶりかもわからないほど久々に定時で退社した。俺がオフィスを後にする背後から「嘘、あの仕事人間の十倉さんが定時に帰ったわよ」「ほんと、僕も驚いちゃったよ」などと、課長を含めた数人が口々に噂している。うるせえ、全部聞こえてんだよ。
別に、仕事人間のつもりはなかった。家に帰ってもすることが無いなら、終電まで仕事をこなしていた方が有意義だと思っていただけで。
趣味らしい趣味も無い。当然交際相手も居ない。と言うかこれについては必要としていなかった。他人と関わることは、俺にとってひどく煩わしいことだったから。我ながらつまらない人間だと思う。でも、それで良かった。
「(あいつ、ちゃんと出て行ったかな)」
いつもよりずっと人が多くて、明るい街の中を行く電車内で、俺は今朝無理矢理振り切ってきた少年のことを思い出していた。
あのまま話を聞き続けていたら、俺にとって良くない言葉を聞いてしまいそうな気がして、逃げ出した。せめて最初に考えたとおり、警察に送り届けるくらいのことはするべきだったと今更悔やむ。
普段の終電帰り以上に重い気のする足を引きずり帰宅する。見遣った自室の窓から漏れる明かりが無いことに、当たり前のことなのにひどくほっとした気持ちにさせられる。そうして、俺はドアの横に取り付けられているポストに手を突っ込んで、固まった。……鍵が、入ってない。
考えるより先にドアノブに手を掛けた。開いている。扉が外れるんじゃないかってくらい乱暴にそこを開け、入ってすぐの壁にある電気のスイッチを押す。点かない。すると「ひゃっ」という小さな悲鳴が下から聞こえ、思わずそちらを向く。視界に飛び込んできたのは、玄関先に座り込んで情けない顔をした白い少年。
「おまっ……まだ居たのかよ……」
最初のコメントを投稿しよう!