『月夜のレプリカント・ラヴァー』

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『月夜のレプリカント・ラヴァー』

 終電に乗っているのは、いつもと代わり映えのしない面子だ。皆、一様にその顔に疲労をありありと浮かべ、車窓の向こう側の夜景を見るともなしに見ていた。きっと、そんな周りの人々の様子をこうして観察しているのは、俺くらいのものだろう。  皆疲れている。でも、俺がそうじゃない訳ではない。ただ、こんな風に自分と同じ、もしくはそれ以上に疲労を滲ませている人間を見ていることによって、自分はまだマシだと錯覚していたいだけなのだ。  駅の改札を抜け、疲れ切って重い足を引きずりながら、自宅までの通い慣れた道を歩いていく。俺の住まいは都心部からいくらか離れた所にあり、街灯の数もまばらだ。多少薄暗かろうと道はわかるし、俺は男なので、不審者との遭遇等諸々の心配もしていない。尤も、日々この時間に帰宅するのが当たり前の、社畜SEを襲う人間など居るはずもなかろうが。  アパートのすぐ近くにあるゴミ捨て場に差し掛かった時のことだった。収集日の夜明けを待つゴミ袋の山に寄りかかるように、倒れている人影を見つけたのは。  ゴミ捨て場の脇にある街灯の明かりが、まるでスポットライトのようにその影を照らしていた。俺は、恐る恐るそこに近づき、そいつの顔を覗き込んだ。  まず、単なる酔っぱらいではないようだった。横たわる肢体は華奢で、露出している範囲の素肌はとても白い。そして、朧気な明かりの下でも艶めいているプラチナブロンド。外人、なのだろうか。目を瞑り、軽く顔を俯けている状態であっても、十分に整っていることがわかる顔立ちで、ともすれば少女のようにも見えたが、恐らくは男だろう。年の頃は十代後半くらいに見える。その身に纏っているのは、自身のサイズより一回りも二回りも大きいシンプルな白のTシャツ一枚で、靴すら履いていなかった。 「……嘘だろ」  自分が遺体の第一発見者になってしまったかもしれない、という可能性を真っ先に否定したくて、俺は倒れている少年の顔の前に手を――けして直接触れないように細心の注意を払いながら――翳してみた。…………息、してない。ヤバい。どうしよう。
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