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平時は無表情なのに、凌辱されている時だけ瞳に色を取り戻すソイツが憎らしかった。俺でなはく、犯してくれる者を求めているのだと言われているようで。
俺の形を、感触を、匂いを覚えさせるように何度も抱いた。俺にしか反応しないように。俺なしではいられなくなるように。
だけれど、いつまで経っても俺を見ないソイツに苛立った。抱けば抱くほど、ソイツに惹かれていく自分に苛立った。
「助けた狼にこんな仕打ちをされて、さぞ憎いだろう」
「いや、君は僕を解放してくれた。恨むなんて以ての外、感謝しているくらいだ」
本当は愛して欲しかった相手に自嘲しながら言うと、ソイツは微笑んで俺の背を撫でた。あの時と同じ温もり。大学や屋敷で見せていた仮面ではない、本心からだと分かる微笑み。
人型に戻り、ソイツの頬を掌で包んで瞳を見つめる。硝子玉のようだった其れには、あの時と同じ輝きが宿っている。
闇に覆われた俺の心に、一筋の光が射す。柔らかな温かい光が。
そっと顔を近付けて唇を包む。誰と接吻しているのか分かっていると告げるかのように、ソイツの腕が俺の首に巻かれる。
こんなに穏やかな接吻は初めてだ。だけれど、何度もした噛みつくような接吻より熱く、激しく感じる。優しいれど火傷しそうな灼熱に、蕩けてしまいそうだ。
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