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「……?」
全て収めきり、ソイツが満足げに息を吐いた時だった。
きな臭さが鼻をついた。耳を澄ますと、たくさんの足音とソイツを呼ぶ声が聞こえた。
山には結界を張っているので人間は入り込めないはずだ。それなのに、ソイツを探す人間の声と足音は徐々に小屋に近付いてくる。
きな臭さも増している。奴等の持つ松明の臭いなのだろう。
「どうしたんだい?」
いつまで経っても動かない俺に焦れたのか、煽るように小刻みに腰を揺らしていたソイツ。だが、俺の異変に気付いたようで動きを止め、怪訝そうに声を掛けてきた。
「お前の父親に見つかったようだ。結界を張っていたのに、どうして……」
「父の知り合いに怪しげな術者がいるからね」
眉を寄せて言う俺に瞠目したソイツは、全てを諦めたような表情を浮かべて他人事のように吐き出した。色を失っていく瞳に、やるせなさが込み上げてくる。
その時、小屋まで十分ほどの所まで迫ってきたソイツの捜索人の会話が聞こえた。
「本当に坊っちゃんを殺っちまってもいいのか?」
「何年か前に愛人が産んだ子供が坊っちゃんよりも優秀なんだってよ。そいつを跡継ぎにすっから坊っちゃんは用済みなんだと」
「旦那様は怖いお方だ」
「本当にそうだ。でも坊っちゃんを殺らなきゃ、俺達が殺られるんだからな」
仕方ないさ、と溜め息を落とす奴等に、怒りが込み上げてくる。
無垢な少年の瞳から輝きを消し去ったのは、母を殺めた憎き男――ソイツの父親だろう。
卑劣な男め、今すぐ喉元を食いちぎってやる。姿形が残らないくらい、ズタズタに切り裂いてやる。
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